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宇宙活動許可制度における宇宙ゴミ緩和要件の国際比較:主要国の国内法分析

Tags: 宇宙法, 宇宙政策, 宇宙ゴミ, スペースデブリ, 宇宙活動許可制度, 国内法, 国際比較, IADCガイドライン, LTSガイドライン, 米国宇宙法, 欧州宇宙法, 日本宇宙活動法

はじめに

宇宙活動の拡大に伴い、地球周回軌道上における宇宙ゴミ(スペースデブリ)の増加は深刻な問題となっております。この問題への対策は、将来にわたる宇宙空間の安定的かつ持続可能な利用のために不可欠であります。宇宙ゴミ問題への取り組みは、技術的な解決策と並行して、国際協力と法的・政策的な枠組みの整備が求められています。

特に、国家の管轄権及び管理の下における宇宙活動について、これを許可し継続的に監督する義務は、「宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」(宇宙条約)第6条によって明確に定められております。この国内における許可制度は、宇宙活動主体に対し、宇宙ゴミの発生抑制や緩和に関する措置を義務付けるための主要な法的ツールとして機能しております。

本稿では、主要な宇宙活動国が、それぞれの国内法に基づく宇宙活動許可制度において、宇宙ゴミの緩和に関してどのような要件を課しているのかを比較分析いたします。各国の制度設計、要求される具体的な緩和措置、国際的なガイドライン(例えば、国際宇宙デブリ調整委員会(IADC)ガイドラインや国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)が採択した宇宙活動の長期持続可能性(LTS)ガイドラインなど)との関係性に焦点を当て、各国のアプローチの多様性と共通点、そして今後の国際的な調和に向けた課題を考察いたします。

宇宙活動許可制度の法的根拠とデブリ緩和における役割

宇宙条約第6条は、「条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間におけるその活動(国の機関によって行われるものであるかまたはその国が管轄権及び管理の下にある非政府団体によって行われるものであるかを問わない。)について国際的な責任を負い、かつ、これを遂行する。月その他の天体を含む宇宙空間における非政府団体の活動は、関係当事国が許可を与え、及び引き続き監督することを要する。」と規定しております。

この条文は、国家が自国の管轄下にある全ての宇宙活動(国家によるものか非国家主体によるものかを問わない)に対して責任を負うことを明記しており、特に非国家主体による活動については、国家による「許可」と「継続的監督」を義務付けております。この国家による許可・監督義務こそが、国内法を通じて宇宙活動主体に特定の要件(例えば、安全基準やデブリ緩和措置)を遵守させるための法的根拠となります。

したがって、各国が宇宙活動許可制度を構築する際に、宇宙ゴミの発生抑制や軌道上での適切な運用終了措置に関する要件を盛り込むことは、宇宙条約上の国家責任を履行し、持続可能な宇宙利用を確保するための極めて重要な手段となるのです。

国際的なデブリ緩和基準と国内制度

宇宙ゴミの緩和に関する国際的な議論は、長年にわたり国連COPUOS技術小委員会やIADCなどの枠組みで行われてきました。その成果として、拘束力のない(ノンバイディングな)国際的なガイドラインが複数採択されております。代表的なものとしては、IADCが策定し、多くの宇宙機関が国内政策や基準の基礎としている「IADC Space Debris Mitigation Guidelines」(2002年改訂、2020年再確認)や、COPUOSが2018年に採択した「宇宙活動の長期持続可能性に関するガイドライン」(LTSガイドライン)のうち、デブリ緩和に関するガイドラインB群などがあります。

これらのガイドラインは、衛星の運用期間終了後の措置(静止軌道衛星の高軌道への移動、低軌道衛星の25年以内の軌道離脱または再突入)、運用中のデブリ発生抑制、打上げロケットの破片化防止など、具体的なデブリ緩和策を推奨しております。

各国の国内法に基づく宇宙活動許可制度は、これらの国際的なノンバイディングなガイドラインで推奨される事項を、国内の法的拘束力を持つ要件として取り込むことで、その実効性を確保しようとしています。しかしながら、その取り込み方、具体的な要件の厳しさ、対象となる宇宙活動の範囲などは、各国によって異なるアプローチが見られます。

主要国の国内法におけるデブリ緩和要件の比較分析

ここでは、主要な宇宙活動国の国内法における宇宙活動許可制度と、そこに含まれるデブリ緩和要件に焦点を当てて比較分析を行います。

米国

米国では、商用宇宙活動に関する許可権限が、主に連邦航空局(FAA)と連邦通信委員会(FCC)に分かれています。

米国の特徴は、複数の機関がそれぞれ異なる側面(打上げ/再突入、通信)から許可権限を持ち、それぞれがデブリ緩和要件を課している点です。特にFCCの通信ライセンスにおけるデブリ要件は、その詳細さと強制力において国際的にも注目されています。

欧州(英国、フランス、ドイツなど)

欧州各国は、欧州宇宙機関(ESA)加盟国として共通の技術基準に関与する一方で、国内法に基づいて独自の宇宙活動許可制度を運用しています。

欧州各国の特徴は、概して国際的なガイドライン(IADC, LTS)を国内法やライセンス審査基準に取り込む形でデブリ緩和要件を課している点です。ただし、その法的拘束力の度合いや詳細な技術要求は、国内法の規定や担当機関の運用によって異なります。

日本

日本では、2016年に施行された宇宙活動法に基づき、内閣総理大臣が宇宙活動に関する許可(打上げ許可及び人工衛星等の管理許可)を行います。宇宙活動法における許可の基準の一つとして、「人工衛星等の軌道上における適切な運用及び使用の終了に関する措置が宇宙空間の安定的かつ持続的な利用を確保するための国際的な取組に照らして適切なものとして内閣府令で定める基準に適合すること」が定められております(宇宙活動法第8条第2項第3号)。

この内閣府令(宇宙活動に関する規則)では、具体的な基準として、国際的な取組、特にIADCガイドラインやLTSガイドラインB群に沿った措置が求められております。具体的には、ミッション終了後の軌道離脱計画(低軌道衛星は25年ルール、静止軌道衛星は墓場軌道への移動)や、運用中の衝突回避能力に関する要求などが含まれます。

日本の制度は、比較的新しい法に基づいているため、策定段階から国際的なデブリ緩和基準を明確に意識して設計されております。許可基準において「国際的な取組に照らして適切なもの」と明記されている点が特徴的であり、国際基準との整合性を重視する姿勢が見られます。

その他の国

宇宙活動を行う他の国々(例えば、ロシア、中国、カナダ、オーストラリアなど)も、それぞれ国内法に基づく宇宙活動許可制度を有しており、デブリ緩和に関する要件を多かれ少なかれ取り入れています。これらの国々も、多くの場合、IADCガイドラインなどの国際的な推奨基準を参考にしながら、国内の規制を策定しています。しかしながら、情報の公開度や法的強制力の度合いは、国によって大きく異なります。特に、近年宇宙活動への参入が増加している新興宇宙国における国内制度の整備状況は、今後の宇宙ゴミ対策における重要な課題の一つといえます。

比較分析からの考察と課題

主要国の国内法における宇宙活動許可制度の比較分析を通じて、いくつかの考察と課題が見えてまいります。

  1. 国際基準の国内法への取り込み方: 各国ともIADCガイドラインやLTSガイドラインといった国際的なソフトロー基準を参考に、国内のデブリ緩和要件を定めています。しかし、その取り込み方は一様ではありません。直接的に国際基準への適合を求める国(日本)、詳細な技術要件を国内規則として定める国(米国FCC)、ライセンス条件として個別に要求する国(英国)など、アプローチは多様です。これにより、国際基準の実効性にはばらつきが生じています。
  2. 法的強制力の違い: 許可制度におけるデブリ緩和要件の法的強制力の度合いも異なります。米国FCCのように、通信ライセンスという運用に不可欠な許可に厳しい要件を課すことで強い強制力を持たせている場合や、日本の宇宙活動法のように、許可基準として明確に位置づけている場合などがあります。許可の取得がなければ活動できないため、許可要件は事実上強い強制力を持ちますが、違反に対する罰則規定なども含めてその実効性を評価する必要があります。
  3. 新たな宇宙活動への対応: メガコンステレーションのような多数の衛星を運用する形態や、軌道上サービス(衛星修理、燃料補給など)といった新しい宇宙活動の出現は、既存のデブリ緩和要件に新たな課題を突きつけています。例えば、多数の衛星の運用終了処理をどのように計画し、個々の衛星に障害が発生した場合にどう対応するか、サービス提供に伴う新たなデブリ発生リスクをどう評価し規制するか、といった点が検討課題となります。米国FCCが低軌道衛星の軌道離脱期間を5年に短縮した提案は、メガコンステレーション時代に対応するための動きの一つといえます。
  4. 国際的な調和と協力: 各国が独自の許可制度を運用している現状は、宇宙活動を行う事業者にとって、複数の国の異なる規制に対応する必要が生じ、国際的な宇宙活動の円滑な遂行を妨げる要因となり得ます。また、規制の緩い国に宇宙活動を集中させる「規制のレース・トゥ・ザ・ボトム」を引き起こす懸念もございます。持続可能な宇宙利用を真に実現するためには、国際的なデブリ緩和基準をより厳格化・統一化し、各国の国内制度間での相互承認や調和を促進するための国際協力が不可欠であります。UN COPUOSのような国際的なフォーラムでの議論を通じ、効果的かつ調和の取れた規制枠組みの構築を目指すことが重要です。

結論

宇宙活動許可制度は、宇宙条約に基づく国家責任の履行として、そして増大する宇宙ゴミ問題への実効的な対策として、極めて重要な役割を果たしております。主要宇宙活動国は、それぞれの国内法に基づき、宇宙活動主体にデブリ緩和措置を義務付けるための要件を許可制度の中に組み込んでいます。

本稿で比較分析したように、各国はIADCガイドラインやLTSガイドラインといった国際的な推奨基準を参考にしつつも、その取り込み方、具体的な要件、法的強制力のアプローチには多様性が見られます。米国FCCの厳格な通信ライセンス要件、国際基準との整合性を重視する日本の宇宙活動法、ライセンス条件として柔軟に対応する欧州各国など、それぞれに特徴がございます。

これらの国内制度は、一定のデブリ緩和効果をもたらす一方で、新たな宇宙活動形態への対応、国際的な規制のばらつきといった課題も抱えております。宇宙ゴミ問題は国境を越えた地球規模の課題であり、その解決には国際的な協調が不可欠です。各国の国内許可制度が、より効果的かつ国際的に調和の取れたものとなるよう、今後も国際的な議論と国内制度の不断の見直しが求められております。持続可能な宇宙利用の未来は、各国の責任ある国内法制度と、それを基盤とした国際協力の強化にかかっているといえるでしょう。